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ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 「悲愴」、「テンペスト」、「ワルトシュタイン」

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モーツァルトのクラビコードとピアノフォルテ

ベートーヴェン(1770~1827)は「楽聖」と呼ばれ古典派を代表する大作曲家ですが、私はベートーヴェン現代の音楽家に残してくれた遺産の大きな一つは「音楽家は芸術家であり自立した仕事である」という,、現代の今ではごく当然の事ですが、音楽の歴史上では革命的な出来事を実行してくれた事ではないかと思います。

ベートーヴェン以前の音楽家は、宮廷や有力貴族に仕え公的あるいは私的な演奏会のための機会音楽として曲を作るというのが通常でしたが、ベートーヴェンは「音楽家は芸術家である」と言い自らの内面を音楽で追及し、現代の音楽家の有り様に通じる歴史を作ったその分岐点に立った音楽家です。 そのお葬式にはロマン派の先駆けであり、市民社会の作曲家であったシューベルトも友人達と参列したそうです。

参考ブログ♪「ベートーヴェン交響曲第9,6,7番(リスト/トランスクリプション)」♪

さてベートーヴェンは1792年ボンに立ち寄ったハイドンにその才能を認められボンからウイーンへ移住しハイドンに弟子入りします。 1795年に作られたピアノ・ソナタ第1番、第2番、第3番(作品2)はハイドンに捧げられています。 しかし20歳後半には難聴が悪化し、1802年には「ハイリゲンシュタットの遺書」という手紙を弟達に書いてその苦悩を訴えています。 しかしその後苦悩を乗り越え1804年からの10年間の時代は「傑作の森」と称されるほど数多くの傑作を作ります。

40歳頃全聾となりますが、その後も交響曲第9番を作曲する等その不屈の精神力には驚かされます。

ベートーヴェンはピアノ・ソナタは全部で32曲作っておりますが、これはピアニストにとっての「新約聖書」と呼ばれており、ピアノを学ぶ者には必修の作品です。 今日と明日の二日間はその中から第8番、第17番、第21番、第23番、第26番について書いてみようと思います。

「ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 演奏法と解釈」~パウル・バドゥーラ=スコダ著

(べ―ト―ヴェン ピアノ・ソナタ 演奏法と解釈~パウル・バドゥーラ=スコダ著 音楽之友社

<ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 作品13 Pathetique(悲愴)>

ベートーヴェンのピアノ・ソナタのCDは30枚以上持っておりますが、その中で珍しい輸入の古楽器のスコダの全集とケンプの全集をご紹介します。 チェリストのニコラ・デルタイユさんのお話によるとスコダの古楽器のこのCDは今は廃盤となって入手できないそうですが、私が入手した時も3ケ月くらい待って取り寄せたCDです。

パウル バドゥーラ=スコダ ベートヴェン ピアノ・ソナタ全集(古楽器による)

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集~パウル・バドゥーラ=スコダ/古楽器による)

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集~ケンプ

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集~ウイルヘルム・ケンプ)

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集ヘンレ版第1巻

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第8番 悲愴

「悲愴」は1798年から1799年にかけて作られたベートーヴェン初期ピアノ・ソナタの代表作です。 当時としては珍しく初版に「Grande sonata pathetique」と自ら記しております。 作曲されたのはベートーヴェンが耳の疾患を自覚し出した頃ですので、それと関係あるのではないかと言われていますが、はっきりとは分かっておりません。 (自ら標題を明記しているのは後、26番の「告別」だけで、他は別の人がそう呼んだ愛称です。)  内容的にロマン的傾向も見えますが、他の芸術からの影響というよりは全て音楽的追及からのものではないかと思います。

ベートーヴェンにとってこの「ハ短調」というのは重要な調性で、第32番ピアノ・ソナタ交響曲第5番「運命」、ピアノ協奏曲第3番など多くの傑作を残しています。

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第8番 「悲愴」第1楽章~ウイルヘルム・ケンプ

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第8番 「悲愴」第2・3楽章~ウイルへルム・ケンプ♬

<ピアノ・ソナタ 第17番 二短調 作品31-2 テンペスト

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全集 ヘンレ版 第2巻   

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第17番 テンペスト

1801年から1802年にかけて作曲された作品31の3曲の中の2のこの「テンペスト」は、ベートーヴェンの伝記執筆者のシンドラーベートーヴェンに第17番の「Sturm und Drang」(疾風怒涛)について尋ねた時、ベートーヴェンが「シェイクスピアテンペストを読みたまえ」と答えたという話からそう呼ばれるようになったそうです。 この時期のベートーヴェンは耳の持病が益々悪化し同年「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いていますが、作風は中期に入り不屈の精神は益々厳しくなっていきますので、テンペスト=嵐は「精神の嵐」を意味しているのかとも思います。

テンペスト」ではそれまでの古典派の常識では考えられない書法が見られ、後期の作曲家ベートーヴェンを予見させる所が随所に表れています。 いろいろな苦悩を乗り越え克服し、勝利へと至るというベートーヴェン独特の構図も見え隠れしており、この頃にはドラマチックなソナタ様式も確立してきています。

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第17番 テンペストバックハウス

<ピアノ・ソナタ 第21番 ハ長調 作品53 「ワルトシュタイン」>

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第21番 ワルトシュタイン

「ワルトシュタイン」というのは人の名前で、ボン時代のベートーヴェンを物心両面から応援してウイーンに送り出した伯爵の名前です。 ウイーンでベートーヴェンが貴族に知己を得られたのはこのワルトシュタイン伯爵のおかげで、ベートーヴェンはその感謝の気持ちから中期の傑作の一つと言われるこの作品をワルトシュタイン伯爵に献呈したようです。 

有名な「不断の努力でモーツアルトの精神をハイドンから受け取りなさい。」という言葉をウイーンへ立つベートーヴェンに贈ったのがこのワルトシュタイン伯爵です。 作曲されたのは「ハイリゲンシュタットの遺書」の苦悩から抜け出て益々精神の高みへと上がろうとする1803年から1804年にかけてです。 作曲の直前の1803年にはパリのエラール社から最新鋭のピアノフォルテを贈呈されており、その事もベートーヴェンがこの華やかな演奏効果の高い作品を作り出すのに一助となったのではないかと思います。

この曲では完全に古典派の大天才達の作風から抜け出て、独自の世界を作りだしており、同時期に書かれた「熱情」と並びベートーヴェン独自の個性に満ち溢れた作品だと思います。

ちなみに作曲当初、2楽章として作曲されていたアンダンテ(ヘ長調)は冗長になるのを避けるために削除されましたが、後に単独の「アンダンテ・ファヴォリ」という小曲として出版されました。 この曲は以前♪阿部裕之先生♪が演奏会で弾いていらしたのでお聴き覚えのある方もいらっっしゃると思います。

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第21番 「ワルトシュタインアルフレッド・ブレンデル

ベートーヴェン 「アンダンテ・ファヴォリ~アルトゥール・シュナーベル

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ集楽譜 クルチ版 シュナーベル校訂

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ集楽譜 クルチ版 シュナーベル校訂)

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第30番、第32番~シュナーベル

ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第30・32番~シュナーベル

明日はベートーヴェンのピアノ・ソナタ「熱情」と「告別」について書きます。 「熱情」はyou tubeにアップしておりますのでもう聴いて下さっている方もいらっっしゃるかと思いますが、書き込みの楽譜など載せて見ます。 私はまだ後期ソナタの第30番、第31番、第32番は弾いておりませんので、(人類未踏の世界と呼ばれる壮大な作品ですが、)挑戦はしてみたいと思っています。

<ピアノを趣味で楽しまれるお小さい方へ>

ピアノを趣味で習われる方もベートーヴェンのピアノ・ソナタが弾けるようになると、ピアノの本当の面白さが分かるようです。 「悲愴」は小学生でも発表会で弾かれる方は多く「ソナチネ」でやめるのではなく、是非「ソナタ」が弾けるように頑張って続けて欲しいと思います。

普段はそれほどハードにされてない方でも、(趣味で楽しむ程度ですが、)私の場合は門下の人には楽譜の比較的簡単なベートーヴェンのピアノ・ソナタに発表会等で小学生から挑戦してもらっています。 お小さい時は体が柔らかいですので、ご指導すれば必ず弾けるようになります。

「ツエル二ー30番に入ったからピアノはやめた」では、名曲と言われるピアノ曲を楽しんで弾くという事はほとんどできず、ピアノは眺めるだけのお家の粗大ゴミかインテリアになってしまいます。 お休みのリラックスした午後、ご家族の方にモーツアルトベートーヴェンショパンを弾いて差し上げる事ができたら、どんなピアニストのCDよりもご家族の方は心が癒されるのではないかと思います。

塾も受験勉強も大切な事です。 人間はいつもやりたい事だけをする事を許されるとは限りません。 乗り越えなくてはいけないハードルが目の前にあれば、それは精一杯の努力で乗り越えなくてはいけません。 しかし芸術を楽しむというのは次元の違う話だと思います。

一日10分ピアノに触るだけでも、必ず上達していきます。 試験の直前は勉強に集中して受験というハードルを越える場合もありますが、それまではお勉強とピアノを両立しながら、最難関の希望の学校に合格されたという方は多くいらっしゃいます。

このブログでこんなきれいな曲があるのだと知り、音楽のお勉強を続けていく楽しい目標になればと願い、毎日ブログを書いております。