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ムソルグスキー 組曲「展覧会の絵」

MESSAGE

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19世紀後半は世界的に民族意識が高まった時代で音楽においても相次いで民族主義的な作曲家が輩出しましたが、バラキレフボロディン、キュイ、リムスキー=コルサコフ、そしてムソルグスキーという「ロシア五人組」と呼ばれる作曲家グループもその内の一つでロシア国民音楽の興隆を推進させました。

展覧会の絵」はそのグループの中の1人のモデスト・ムソルグスキー(1839~1881)の代表的なピアノ曲です。 ムソルグスキーの作風は喜怒哀楽の激しいロシア的な感性に溢れたものでドラマティックですがその特質はこのピアノ曲にもよく表れております。

親友で美術評論家のスターソフに献呈されたこの「展覧会の絵」は建築士で画家で設計士であったもう一人の友人ヴィクトル・ハルトマンの思い出として書かれたものです。 スターソフを通じてムソルグスキーはハルトマンと知り合いますが1873年の夏ハルトマンは予期せぬ早死にをし友人たちは打ちのめされます。 

スターソフはハルトマンの作品の中から400点を展示する追悼展覧会を催すのに力を貸し、展覧会は1874年の2月から3月の間に開かれます。 ハルトマンがヨーロッパを旅行した際にフランスやローマ、ポーランドなどを題材にして描いた油絵や水彩画が含まれておりましたが、この展覧会をみてインスピレーションを受けたムソルグスキーは1874年の6月に3週間で「展覧会の絵」を書き上げました。 彼はこれを「天才建築家ハルトマンの一連のアルバム」と呼び元々は単に「ハルトマン」というタイトルにしようかとも考えておりました。

全体は展覧会で絵を一点ずつゆっくり鑑賞する形で構成され冒頭の「プロムナード」のテーマを間に挟みながら全部で10枚の絵がモティーフとなり全曲は続けて演奏されます。 

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10枚の絵

「プロムナード」は展覧会の会場に入り次々に絵を見るために歩く作曲者自身の自画像であり、その音楽は再現される度にその性格を変え作曲者の絵に対する反応を表しております。 「プロムナード」は使われる毎に曲想が変わるので次の曲の雰囲気と調性とを的確に感じて弾くことが大切です。

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プロムナード1

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プロムナード2

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プロムナード3

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プロムナード4

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プロムナード5

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プロムナード6

ムソルグスキーは10枚の絵を示しておりますが、その中で残っているものはごく少数しかなく、遺作展当時のカタログなどから5点の絵は判明しておりますが、残りの絵の行方は不明となっております。

なおこの曲はその後ラヴェルが1922年に管弦楽に編曲して一層よく親しまれております。

1 プロムナード

2 グノームス 

グノームスは<地の精>のことで地中の宝を守るこびとです。 リズムはそのぎこちない歩きを示します。 芸術家クラブのクリスマス・ツリーのための装飾品としてつくられた木製のくるみ割り人形です。

3 プロムナード

4 古城

古いフランスの城の静かな佇まいの追憶の中で中世吟遊詩人がものがなしいメロディで歌います。

5 プロムナード

6 テュイルリーの庭

ハルトマンがフランス滞在中に訪れたパリの庭と情景です。 そこで走りまわり屈託なく遊ぶ子供たちの賑やかで嬉しそうな声です。

7 ヴィドロ

ヴィドロは荷車を引くポーランドの牛を表しています。 遠くから牛車がゆっくり近づきまた静かに遠ざかっていきます。 夫人の故郷ポーランドの田舎の風景と言われております。

8 プロムナード

9 殻をつけた雛鳥の踊り

バレエのために描かれた絵の一つです。 このスケッチは現存しており、鳥のような衣装と鳥の頭の帽子をかぶった踊り子の姿が描かれております。

10 サミュエル・ゴールデンベルクとシュミュイレ

金持ちのユダヤ人サミュエルと貧乏なユダヤ人シュミュイレの2人の肖像画が残されており、その高慢な態度と貧乏人の悲哀が音楽で対比されていきます。

11 プロムナード

12 リモージュ

フランス南西部の町リモージュの市場でのご婦人たちの他愛もないおしゃべりと言われていますが、その絵は行方不明です。

13 カタコンブ

ローマ時代の共同墓地の事で暗い地下墓地内をハルトマンと友人、案内人の3人がランプを持って立っている姿が描かれています。 

14 プロムナード(間奏曲)

ラテン語で「死者の言葉で死者へ」と題された重く不気味な音楽です。

15 鶏の足の上に立つ小屋(バーバ・ヤーガ)

バーバ・ヤーガはロシアに伝わる妖婆です。 鶏の足を台に時計を付けた小屋に住み、空を飛び人を食べるといいます。 音楽も妖怪しみています。

16 キエフの大門

1869年キエフに新しく門を建てることになりハルトマンも設計図を出品しました。 しかしその建設は中止となりそのスケッチだけが残りました。

覚えやすいメロディと緩急自在の構成からムソルグスキーの作品の中でも非常に有名な作品となっております。 

ムソルグスキー 展覧会の絵♫~エフゲニー・キーシン(ピアノ)

ムソルグスキー/ラヴェル 展覧会の絵♫~オーケストラ版

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ムソルグスキー 展覧会の絵CD~エフゲニー・キーシン

明日はスクリャービンのピアノ・ソナタ第3番について書きます。

明日12月9日(水)午前5:00~5:55までNHKBSプレミアム「クラシック倶楽部」で日本音コンピアノ部門本選模様が放送されます。  日本音楽コンクールは日本で一番歴史の古い権威ある音楽コンクールです。  私がプライベートで師事する♪阿部裕之先生♪も第49回日本音楽コンクールで第1位に輝いていらっしゃいます。 早朝ですが是非ご覧になって下さい。