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ブラームス チェロ・ソナタ 第1番、第2番

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モーツァルトのクラビコードとピアノフォルテ

ブラームス(1833~1897)は2曲のチェロ・ソナタを残していますが、第1番は1865年に作曲されたものです。 ブラームスの音楽の持つ重厚な響きがチェロの音色と合っていて、ベートーヴェンのチェロ・ソナタと並んで愛好する人も多く演奏される機会も大変多い作品です。

ブラームスハンブルク出身ですが、各地を旅行した後で1862年からはウイーンを拠点として創作活動を続けます。 このチェロ・ソナタ第1番を作曲した直後の1868年には「ドイツ・レクイエム」を作曲しておりますが、チェロ・ソナタ第2番は交響曲第4番を作曲した翌年の1886年に作曲されています。 つまり第1番と第2番には20年の時の経過があるわけですが、それにも拘わらずどちらにも同じブラームスの情熱と憂愁が流れていてチェロの名曲だと思います。

チェロ・ソナタ第1番は友人のチェロ奏者のゲンスバッハーに献呈されたものですが、曲の完成直後に行われた私的な初演ではゲンスバッハーがチェロを、ブラームスがピアノを弾いています。

各楽章全て短調で書かれているため、北国の暗い厳しい雰囲気が漂い、ブラームス特有の暗い内に秘めた情熱に溢れています。

ブラームス チェロ・ソナタ 第1番、第2番

(Antonio Janigro, cello/Paul Badura-Skoda,piano)

ブラームス チェロ・ソナタ 第1番 ホ短調 作品38~ヨー・ヨー・マ(チェロ)、エマニュエル・アックス(ピアノ)

https://www.youtube.com/watch?v=6oyLJHpe8Z8

3楽章の冒頭のピアノによるフーガ主題は、バッハの「フーガの技法」の中のコントラプンクトゥスXIIIをバッハが「二台クラヴィーアによるフーガ」に編曲したフーガによるものです。(contrapunctus=counterpoint~対位法) 

バッハ 二台クラヴィーアによるフーガ "Fuga a 2(rectus)"(正立形)

https://www.youtube.com/watch?v=4bCVQ1KAAeQ

バッハ 二台クラヴィーアによるフーガ"Alio modo Fuga 2(inversus)"(倒立形)

https://www.youtube.com/watch?v=YZPywDn84Ys

(この曲はContrapunctus inversus"鏡像フーガ"と呼ばれ音符の上下をひっくり返しても演奏できます。)

ブラームス チェロ・ソナタ第2番>

1862年ウイーンへ出たブラームスはウイーンを本拠地として活動を続けていましたが、夏の間は避暑地で作曲をするのを常としていました。 1877年に作られた交響曲第2番は南オーストリアのペルチャッハでの生活に刺激されて一気に書かれた事は有名ですが、このチェロ・ソナタ第2番も1886年スイスのトゥーン湖畔での快適な生活から刺激を受け「ヴァイオリン・ソナタ第2番」と共に作曲されました。

4楽章からなる作品ですが、ブラームスの魅力の「情熱的でかつその中に憂いを秘めている」という美点がチェロの音色と相乗して発揮されている曲だと思います。

ブラ―ムス チェロ・ソナタ 第2番 ヘ長調 作品99~リヒテル(ピアノ)、ロストロポーヴィッチ(チェロ)

https://www.youtube.com/watch?v=RxnnRXDc-Jc

明日はピアノを学ぶ人には新約聖書と言われているベートーヴェンのピアノ・ソナタの中から「熱情」、「告別」、「ワルトシュタイン」、「テンペスト」、「悲愴」について書きます。(ちなみに先日書きましたバッハの平均律はピアノを学ぶ人には旧約聖書と言われています。) 

以前も書きましたが、バッハの平均律ベートーヴェンのピアノ・ソナタショパンエチュードはピアニストにとっては全曲学ばなければならないタスクです。 他にもピアノ作品は(他の楽器と比べると)数が多く、一生弾き続けても全てを弾き尽くす事は不可能かと思いますが、クラシック音楽は時空を超えて夢の広がる世界ですので是非多くの方にその魅力を知って頂けたらと思います。

今のお子さんは小学校高学年になると習いごとを止めて、次は塾と受験勉強に全エネルギーを注ぐという方が多いですが、音楽だけではなく文学、美術というような日常生活には一見不必要なものに思われる世界が、どれだけ人間の精神の浄化の助けになっているかを少しでも理解して頂けたらと願いながら日々ピアノと関わっております。